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AI、コスト上昇、ディスラプション:ASEANの保険業界の展望

AI、医療費の高騰、規制の変化により、ASEANの保険会社は戦略の見直しを迫られています。取り残されるリスクをどのように回避しようとしているか、HCLTechのシニア・セールスディレクターであるSrinivasan Varadharajanが解説します
 
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Mousume Roy
Mousume Roy
Associate General Manager, Global Thought Leadership
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AI、コスト上昇、ディスラプション:ASEANの保険業界の展望

ASEANの保険セクターはここ数年、目覚ましい回復力と成長を見せています。ASEAN 10か国で事業を展開する保険会社は635社にのぼり、生命保険と損害保険の両分野が著しく拡大しています。HCLTechのシニア・セールスディレクターであるSrinivasan Varadharajanは、トレンド&インサイトでのディスカッションの中で、この成長は国特有のニュアンスや課題の変化に保険会社が戦略的に対応した結果であると指摘します。

「損害保険業界は、保険料率の上昇に支えられ、需要は堅調です」とVaradharajanは説明しています。生命保険会社でも、投資利益が堅調で、全体的な収益に貢献しています。しかし、ASEAN地域は一様ではありません。「たとえば、シンガポールはGDPや資本成長率の点でほかのASEAN諸国と大きく異なります。インドネシアでは、手頃な価格とニッチな中小企業向け商品により、マイクロインシュランスが盛んになっています」とVaradharajanは付け加えています。

このような差はあるものの、経済パフォーマンスと保険の成長との相関関係は依然として明らかです。「経済活動が保険商品の需要を生み出すため、保険の伸びはGDPの拡大と正の相関関係があります」とVaradharajanは指摘します。マレーシア、フィリピン、ベトナムなどの国々は損害保険が力強く成長する態勢にあり、タイとベトナムは失業率が低くGDP成長率が高いため、生命保険需要が増加すると予想されます。

業界をとりまく主な課題

成長の機会が豊富にある一方で、保険会社は差し迫った課題に取り組んでいます。「生命保険セクターでは、販売効率が大きな懸念事項となっています」とVaradharajanは指摘します。「これまで主要な販売チャネルであった専属代理店の有効性が薄れ、代理店の役割を進んで引き受ける人は減少しています」。この傾向はトップラインの収益を脅かし、保険会社は新たな販売戦略を模索せざるを得なくなっています。

損害保険と医療保険では、医療費の上昇がもう1つの障壁となっています。「医療費は高騰しています」とVaradharajanは説明します。「たとえばマレーシアでは、保険会社は医療保険料を最大70%値上げせざるを得なくなっています。ただ、このような急激な値上げにより、解約を考える顧客も出てくるでしょう」

競争も激化しており、インシュアテックのスタートアップ企業が従来の業界に破壊をもたらしています。「こうした新興企業はレガシーテクノロジーの重荷を背負っていないため、より迅速にイノベーションを起こすことができます」とVaradharajanは言います。さらに、保険会社は経済の不確実性にも対応しなければなりません。「投資利益率の低下は保険会社の収益性に大きな影響を与えかねないため、リスクヘッジが重要になります」

気候変動も喫緊の課題です。「自然災害はバランスシートに深刻な影響を与えます。たった一度の異常気象が保険金請求の急増を招き、保険会社は財務的な負担を強いられることになります」とVaradharajanは警告しています。

AIとデジタルトランスフォーメーションへのシフト

こうした課題に対応するため、保険会社は業務モデルの見直しを進めています。「従来のルールベースの処理からAI主導のモデルへの移行が進んでいます」とVaradharajanは指摘します。「損害保険会社はIoTや衛星データの利用を増やし、リスク評価や保険金請求管理を強化しています」

AIの急速な進歩は、業界リーダーに歓喜と懸念をもたらしています。「現在、保険会社の幹部は皆、AIと生成AIに注目しています。AIの進化のペースは非常に速いため、保険会社はその影響を完全に理解し、業務に統合するための最善の方法を判断するのに苦心しています」

ただ、レガシーシステムが依然として障害となっています。「データの質はAI導入の大きな課題です」とVaradharajanは説明します。「保険会社はAIの導入が不可避であることを認識していますが、まずはデータインフラをクリーンアップし、近代化しなければなりません」。多くの保険会社は現在、データエンジニアリングとITのアップグレードに多額の投資を行い、AIの導入を促進しています。

AI主導のソリューションにより、保険会社は引受プロセスの強化、不正検出の向上、カスタマーエクスペリエンスの合理化を実現しています。たとえば、予測分析を活用し、リスクプロファイルをより正確に評価して、保険料を過去の仮定ではなくリアルタイムのデータに基づいて計算しています。さらに、チャットボットやAI主導の顧客サービスモデルでエンゲージメントを向上させ、保険金請求処理の所要時間を短縮しています。

もう1つの技術シフトは生成AIです。「当初、保険会社は概念実証を通じて生成AIを試していました。現在は生成AIを中核的なビジネスプロセスに統合する方向に向かっています。来年には、生成AIが大規模に導入されるでしょう」とVaradharajanは予測しています。先進的なデータ分析によって、保険会社はハイパーパーソナライズされた保険を提供し、画一的なアプローチを排除できます。

さらに、AIを活用した自動化によって管理部門の業務負担が削減されるため、保険会社は商品開発や戦略的成長といったインパクトの大きいイニシアチブにリソースを配分できます。AIはまた、先を見越したリスク管理の文化を醸成します。膨大なデータセットを分析することで、保険会社は潜在的な詐欺のパターンを検知し、リスクを事前に軽減して拡大を抑えます。このような予測能力は、財務上の損失を削減するだけでなく、保険会社と保険契約者の信頼関係を強化します。

コストの最適化と規制コンプライアンスのトレンド

保険会社は、テクノロジーだけでなく、コスト構造も改良しています。「オフショア・デリバリーセンター(ODC)を設立し、運営経費を削減しようとする傾向が強まっています」とVaradharajanは述べています。保険会社は社外チームも巻き込む形でテクノロジーを活用しようとしています。

規制コンプライアンスもまた、さまざまに検討されている分野です。「以前は、規制コストは避けられないものとみなされていましたが、現在、保険会社はこれらのコストを削減する方法を積極的に模索しています」とVaradharajanは言います。「アプローチの1つとして、『サービスとしての規制コンプライアンス』モデルを通じてコンプライアンス関連業務をアウトソーシングし、より効果的にコストを管理することが挙げられます」

AI、クラウドコンピューティング、ブロックチェーン技術が融合し、業界のオペレーションの枠組みが再構築されつつあります。クラウドベースのインフラにより、保険会社は迅速に拡張し、グローバルなチーム間でシームレスなデータアクセスとコラボレーションを実現しています。ブロックチェーンは保険契約管理と保険金請求処理の透明性を高め、不正行為を削減し、関係者間の信頼を高めています。

競争力を維持するために、ASEANの保険会社は継続的な学習と人材のスキルアップに優先的に取り組む必要があります。AIによる自動化が注目を集める中、倫理的なAIの導入と意思決定において重要な役割を果たすのは人間の専門知識です。AIリテラシープログラムに投資し、イノベーションの文化を推進する保険会社は、より有利な立場で業界をリードしていくでしょう。

HCLTech:保険におけるAI導入を加速

HCLTechは、ASEAN地域全体の保険会社の多様なニーズを認識してエンゲージメント戦略を調整し、同一組織内で複数のモデルを採用することで、異なるプロジェクトに効果的に対処しています。HCLTechの専門知識は、レガシーシステムのコスト効率に優れた保守から最先端のデジタルソリューションの導入まで、テクノロジー管理の全領域に及びます。

保険会社は、社内のチームに過度の負担をかけることなく、新しいソリューションの実験と実装を加速させるために、テクノロジーパートナーをますます活用するようになっています。HCLTechは、主に2つの方法でイノベーションを実現し、保険会社をサポートしています。1つ目は、ニッチなスキルセットと技術的専門知識で社内イノベーションラボを補完することで、2つ目は、デジタル・イノベーションラボへのアクセスを提供し、保険会社が本格的な展開の前にサンドボックス環境で新しいアイデアをテストできるようにすることです。このフェイルファスト・アプローチにより、保険会社は大きな財務リスクを負うことなく、実行可能性を評価できます。

HCLTechが保険業界向けに展開する主力サービスの1つは、AI主導のトランスフォーメーションのための包括的なソリューションであるAI Forceフレームワークです。AI Forceは単なるツールではなく、AIを活用したアクセラレータ、フレームワーク、方法論のエコシステムであり、保険プロセス全体を効率化するために設計されています。AI Forceを活用することで、保険会社はSDLC全体を改善し、ビジネス要件の作成、テストケースの作成、アプリケーション固有の文書化などのプロセスを自動化できます。

たとえば、保険会社が新商品を導入する場合、AI Forceはあらかじめ定義されたパラメータに基づいて必要な文書やプロセスのワークフローを生成し、商品立ち上げに必要な時間と労力を大幅に削減できます。このフレームワークは既存のシステムとシームレスに統合できるため、保険会社はコアインフラを一新することなくAIを最大限に活用できます。自動化だけでなく、HCLTechは保険に特化した生成AIのユースケースカタログを積極的に開発し、業界のニーズに合わせてすぐに導入可能なAIソリューションを保険会社に提供しています。保険会社がユースケースを構想するのを待つのではなく、HCLTechはあらかじめ構築されたソリューションを提示することで、より迅速な意思決定と実装を促進します。

HCLTechは、責任あるAIを強く支持します。保険会社は、AI導入のメリットと、AIを導入したビジネスプロセスの成果に対する説明可能性を管理する必要があります。さらに、個人データ保護要件を含む規制コンプライアンスを最優先すべきであり、AIによって強化し、再構築したプロセスは、許容できない形でリスクを増大させるものであってはなりません。HCLTechの主なケイパビリティには、責任あるAIのコンサルティングとリスク評価、インパクト評価を文書化するRAIpilot、コンテンツの安全性モデレーション、TrustifAIフレームワーク、30以上の責任あるAIツールを備えたORAツールボックスなどがあります。

 

公共セクターにおける進歩の加速

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ASEANの保険会社の前途

ASEANの保険セクターでは、経済の不確実性や事業運営上の障壁にもかかわらず、成長軌道が続いています。保険会社は市場の変化に積極的に適応し、AIの活用やビジネスモデルの改良により競争力を維持しています。

AIの導入で倫理とコンプライアンスを確保するには、規制当局との連携が重要な要素になります。ASEANの保険会社は規制当局と協力し、標準化された枠組みを確立して、消費者の利益を守りながら技術の進歩を促進する必要があります。イノベーションと責任あるガバナンスのバランスは、持続可能な成長を実現するうえで極めて重要です。

業界が成長する中、保険会社はイノベーション、コスト効率、規制遵守のバランスを取る必要があります。このような力学をうまく処理できれば、ますます複雑化する環境を生き抜いていけるでしょう。「オペレーティングモデルを再構築し、先進テクノロジーを統合できるかどうかが、保険会社の今後数年の成功を決定づけます」とVaradharajanは結論づけています。

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